ヒソヒソと俺の悪口を言う声が聞こえる。
それは、どれも聞きなれたもので。
死ねとか、化け物とか。
時折こちらを見る眼はとても冷たいものだった。
其の眼は、俺に対する恐怖と、憎しみとでいっぱいになっている。
以前なら、こんな奴らは殺していた。
砂で一握りすれば一瞬で消える命。
とても簡単だ。
だが、俺は俺の悪口を言う奴らを、俺を冷たい視線で見る奴らを無視して歩き出した。
気にならないと言うなら嘘になるけれど今の俺にとっては昔より心にくることはなかった。
それは、俺の存在を認めてくれる人ができたから。
俺を愛してくれる人ができたから。
頭の中にはの姿が思い浮かぶ。
いつもにこにこ笑って俺の側に居てくれる。
こんな俺を愛してくれる。
無償の愛を注いでくれる。
自然と俺に笑みがこぼれた。
それは、ほんのわずかなもので誰にもわかりはしない。
「ちょっと、何言ってんのよ!
我愛羅のこと何も知らないくせに、勝手なこと言わないでよ!!」
「…。」
俺のよく知っている気配が近づいたと思ったらそれはだった。
俺がさっきまで想っていた人物。
は俺の悪口を言っている奴らに言い返した。
に強く言われて奴らは黙って気まずそうに視線を落とした。
俺が名を呼ぶとは少し怒った顔で俺の所に歩いて来る。
「もー!何で言い返さないの!?見てるこっちが頭にくるわ!」
「あんな奴らをわざわざ相手にすることもないだろう。」
「でもさ。」
「だが、…有難う、。」
「…うん。」
俺の為に本気で怒ってくれる。
それが本当に嬉しかった。
今まで俺の為にそこまでしてくれる奴は誰一人としていなかったから。
「は、何故ここに居るんだ?」
「買い物の途中だったんだけど、我愛羅の姿が見えたから追いかけて来たの。
そうしたらあいつらが我愛羅の悪口言ってて頭にきたわよ!!」
は、拳を握り締めていて本気で怒っていることがわかる。
俺は、思わず笑ってしまった。
笑う場面では、ないと言うのに。
俺の笑い顔を見たの顔は怒り顔から不機嫌な顔へと変わった。
くるくると変わるの表情は何時見ても飽きない。
「ちょっと、何笑ってんの!?ここは、笑う所じゃないでしょ?」
だけが、俺のことをわかってくれる。
俺の表情の変化は、よく見ないとわからないものだ。
それをは、すぐに俺が笑っているとわかった。
それが嬉しかった。
「嬉しい時は、笑うものだとお前が言ったんだろう。」
「うん。」
「だから笑った。」
「……我愛羅って、強いね。」
「行き成り、何だ?」
の顔がすっと真剣な顔に変わった。
話の内容もかみ合っていない。
一体どうしたのだろう。
俺の顔から笑みは消え、と同じ表情になった。
ほのぼのな雰囲気からシリアスな雰囲気へと変わる。
「だって、いつもいつも酷いことを言われて、あんな冷たい視線で見られて。
なのに、こうして笑ってる。あたしだったらきっと笑うことなんで出来ないと思う。
心が壊れちゃう。……だから我愛羅は凄いと思うの。」
の言うことは最もだ。
普通だったら心が壊れてしまって感情をなくしてしまうだろう。
昔の俺が正にそうだった。
でも、こうして居られるのはがいるからだ。
が側に居て笑ってくれるから俺も笑っていられる。
「別に、俺は強くなどない。」
「あたしには、そう見えるんだけど。」
「だとしたらそれは、のお蔭だ。」
「あたし?」
が自分のことを指差す。
どうやら何故俺がそう言ったのかわかっていないようだ。
「が側に居てくれるから俺は強く居られる。
が笑って居てくれるから俺も笑っていられるんだ。」
「そうかな。だとしたら嬉しい!」
が笑えば俺も自然と笑顔になる。
が泣いていれば、俺も悲しい気持ちになる。
のお蔭で俺は感情を知った。
心が強くなった。
愛を知った。
「、愛している…。」
嗚呼。
これが愛しいという気持ちなのだろう。
がくれたのは、とても大事な愛しいという気持ちだった。
これからもずっとのことを愛していきたい。
2005.6.04 早川レン
BGM:私を泣かせて下さい by:ノクターン様